『小さな星がほら一つ 』     writer:猫鞭 サマ


小さなもんだ、人間なんて。
つい先程まで友だった肉の塊を見て、悲しむよりも先にそんな考えが頭を掠めた。

涙一つ零れず、ただ呆然と受け止めた現実。



「人間なんてなぁ新八。星みてぇなモンだ」
「はいはい」
「でっかいようで宇宙に比べたら限りなくゼロに近い存在よ。ちっちゃい、ちっちゃ過ぎるてぇの!銀さんのマグナムはデカイけど!マジでかいよ?!」
「はいはいはい」
「ちょっと、新ちゃん。真面目に聞いてる?この熱い語りを!」
「聞いてませんよ、酔っ払いの戯言なんて」

何処で飲んできたんだか。
へべれけになって帰宅した銀時は、自宅に戻らず自分の帰りを持っていた新八の前にどっかりと腰を下ろすと、弾丸のように喋り始めた。

星がどうの、宇宙がどうの。
小さいだの、大きいだの、一瞬は永遠の積み重ねだの、だから永遠は一瞬だの。
典型的な酔っ払いだ。酔っ払いの中でもウザイ上位に入る『他人にとってはくだらない持論を熱く語る酔っ払い』だ。

「だぁからぁ、小さいながらも生きていけばぁ、人生の花ってのは咲くんだよぉ〜」
「もう、寝たらどうですか?」

深い溜息を吐きながら、何度か繰り返した提案を新八は口にした。
時間はとうに深夜を過ぎている。正直眠いし、酔っ払った銀時は酒臭いは話はウザイはで最悪だ。

「もう寝ましょうよ、銀さん。明日はゆっくり寝てていいですから」
「朝飯はダシのきいた味噌汁が必須なんだコノヤロー。何故ならなぁ……」
「はいはいはいはい!分かりました、ダシのきいた味噌汁をちゃんと用意しますから!とにかく寝ましょう。ほら、立って。僕は布団をひきますから、アンタは歯を磨いて下さい」

酔っ払いの言葉を無理やり遮りながら、腕を取り自分と一緒に立ち上がらせようとした。
……が、銀時の身体は動かない。

「銀さん、立って。洗面所行きますよ」
「…………」
「上手く歩けないんだったら、僕が支えてあげます」
「…………」
「歯ブラシに歯磨き粉もつけてあげます」
「…………」
「……銀さん?」

今度は全く何も発しなくなってしまった銀時を不思議に思い、新八は小首を傾げて浮きかけた腰を再び降ろす。

その瞬間、だった。

「っわぁ?!」

急に身体がバランスを崩して、気が付けば銀時の腕の中に居た。
力加減を全く考えていないのだろう。背中に回った両腕に締め付けられて新八は痛みに顔をしかめた。

「銀さん、痛いです。離してください…!」
「新八、人間はちっちゃいんだよ。宇宙レベルから見たら屑みてぇな星並に小せぇんだよ」
「それは、聞きましたよ。いいから、離し……」
「うっかりしてっと、消えてなくなっちまう。ブラックホールに飲み込まれて二度と会えなくなっちまう」
「……銀さん……?」
「だからよ、俺は誓ったんだ」

先程までの呂律が回らない口調とは違った色で紡がれたその言葉に、新八はしばらくの間声を失った。
再び押し黙った銀時は、相変わらず凄い力で自分を掻き抱いている。表情は見えないがまるで泣いているかのように思えた。

「自分が守りてぇって思ったモンの為なら悪魔にでも何にでもなって、地球だろうが宇宙だろうが平気なツラしてぶっ壊してやるってよぉ、誓ったんだよ。分かったか、コノヤロー」

搾り出すような声。
きつくきつく自分の身体を締める腕。

それらは、銀時の苦しみや悲しみを新八に伝えるには、充分すぎるもので。

「………銀さん」

幾許かの時の後。新八の腕はゆっくりと銀時の背中に回り、子供をあやすような優しい声で彼の名を呼んだ。

「銀さん、銀さん。ね、僕の声聞こえてます?銀さん」
「……んだよ」

小さな声だったが反応があったのを確認した後、新八は穏やかな声色で言葉を紡いだ。

「僕はアンタが悪魔になったら嫌です。すっごく嫌です。守りたいものの為なら何にでもなるっていう心意気は認めますけど、平気なツラして地球やら宇宙やらぶっ壊してる銀さんは嫌です。絶対嫌です。だって、そんなアンタ、アンタじゃない」

銀時の背中は撫でさするには広すぎる。多少腕に疲れを感じてきたが、それでも新八はその行為をやめようとは思わなかった。

「守りたいもの為に、銀さんは銀さんで居てください」

彼の言った『守りたいもの』の中に、自分も神楽も入っている。それが解らない程、新八は鈍くも子供でも無かった。

「それにね」

守りたいものの為に強くあろうとする銀時。その彼が垣間見せた苦痛と弱さに、新八は言ってやりたい事があった。

「銀さんの守りたいものは、それ程弱くありません。宇宙レベルにしたら屑みたいな星かもしれませんが、突然消えてなくなりもしなけりゃ、ブラックホールにも飲み込まれません。がっちりアンタに捕まって、離れません」

新八の身体に回っていた両腕の力が、ほんの少し緩やかなものになる。それを感じながら、今度は自分の両腕に力を込めて銀時の身体を掻き抱いた。

「アンタは、一人じゃない」

耳元で紡がれたその言葉は、まるで子守唄のように銀時の心の凪を落ち着かせた。

「一人じゃない」

同じ言葉を繰り返した直後、銀時の腕が背中から肩に移り二人の間に僅かな距離を作った。
新八の目に映った銀時は、まるで戦っている時のような眼差しだった。

「……新八」
「はい」
「側に居ろ」
「はい」
「俺の側に居ろ。絶対居ろ。離れるんじゃねぇぞ」
「はい。……でも、もし。もし、アンタの側から離れるような事態になったら、全力で取り戻して下さいね」
「あたりめぇだ。全力で戦って取り戻す」
「僕も全力で戦いますから。銀さんの側に戻る為に」
「絶対だ」
「絶対です」

絶対に。
自分が自分で居る為に、互いが苦しまないように。
宇宙の闇にも飲み込まれない、輝く星屑になろう。

「「一人にしない」」

誓おう。



END
20060721

有紀れな様に相互記念として捧げます。






喜びの声:

「オシベとメシベのメカニズム」の猫鞭さまより相互記念をいただきましたvv
私の銀・新に火をつけてくださった御方でございます♪
あぁ・・もう、この二人の情景が目に映るようで、酔っ払いといっても銀さん・・どこか素面なのではないでしょうか?
新八くんの「全力で取り戻してくださいね」に、私の心臓がギュッ!と掴まれてしまった思いですv

ありがとうございますv
この二人に心が和みますvv


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